木のまちをつくる
2012/9/11
朝夕は涼しくなりましたが、まだまだ昼間は暑い日が続いています。
強い日差しの中で木陰に入ると、
周囲の熱気がやわらぎ、葉の揺れる音、葉や幹の香りで落ち着きますね。
?
少し前になりますが、6月末に「木材利用推進セミナー」に参加してきました。
主催は次世代木質建築推進協議会(NEWCA)で、林野庁や地方自自治体、建築士会等の後援を受けて、
全国数十カ所で開催されました。
九州では福岡のみでの開催で、会場は200名を超える設計・建築関係者が参加しており、
木材利用についての関心の高さを感じました。
?セミナーの背景として、2010年に施行された「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」があります。
?匠建築研究所では、この法律施行後、木造の保育園の設計・監理を行いました。
福岡市東区に建つ「東青葉保育園」は、木造の準耐火構造です。
建築基準法では、 建物の用途、規模によって、計画する建物を耐火構造や準耐火構造とする必要があります。
「木造」と「耐火」「準耐火」という言葉が結びつかない人もいると思います。
一般的に、「木」は燃えるもの、火に弱いという意識があると思いますが、
実際は鉄やコンクリートに比べ熱伝導率(熱の伝わる速さ、小さい方が熱が伝わりにくい)が小さく、
表面が燃えても内部まで火が届きにくい特性があります。
木の熱伝導率を1とすると、鉄(鋼)は3470、コンクリートは9と、木が熱を伝えにくい材料だということが明らかです。
しかし、いくら木が熱を伝えにくいとはいっても、
「耐火」「準耐火」という性能を確保するためには使い方を考えなければいけません。
上の写真は「東青葉保育園」の軸組の様子です。
床根太、天井野縁と比べると、柱や梁が太いことがわかります。
今回は、「燃え代」設計を行い、準耐火性能を確保した園舎を作りました。
つまり、火災時に表面部分が燃えても、構造耐力上支障のないように構造計算を行い、材料の断面寸法を決定しました。
?木造の耐火建築物の取り組みは増えており、さまざまな方法が生み出されています。
国内では今夏、竹中工務店が日本初となる耐火木造のオフィスビルの建築に着手しました。
木造化への取り組みが活発化している大きな背景としては、地球環境への負荷が小さいことが挙げられます。
前述したように木は熱伝導率が小さく断熱性に優れ、調湿性、リラックス効果があるほか、
木材製造時のエネルギー消費が小さい、再生可能資源でもあります。
日本は世界で第2位の森林保有国でありながら、木材の供給量を見ると安価な輸入材の供給が多く、
国産材が活用されることが少なく、ストックが増え続けている状況です。(参照:林野庁 木材需給表)
国内の豊富な森林資源を活用できれば、製造から運搬、建設、廃棄までのサイクルにおける、
二酸化炭素放出量を低減することができます。
木材利用推進・エコに関心の高い欧州では、9階建てのマンション(一階のみRC、上階は木造:ロンドン)や、
パッシブハウス仕様の市営住宅(ウィーン)などの事例もあります。
構造耐力や耐火性能という建築としての性能確保の課題は多々ありますが、
それらをクリアして、工事中も木の香りがして、木槌の音が響く建物が増えたら、素敵だと思います。
木々が森や山を作るように、「木のまちをつくる」ことができれば、
都市の表情、そこで生活をする人々の姿がよりいきいきとしてくるような気がします。
たくさんのメリットがある木の利用促進に、設計者として積極的に参加していきたいと考えています。
設計部:福田