スタッフブログ更新:谷崎潤一郎「陰翳礼讃」
2013/7/1
この間の休日にふと思い立ち、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」を読み返してみました。以前読んだのは、ある雑誌の
特集で「建築家が薦める本100冊」のようなものに載っていたのがきっかけでした。
その中で、日本建築の特徴である、大きな屋根とその庇の深さが、気候風土や建築材料の関係、例えば、レンガや
ガラスやセメントのようなものを使わないところから、横なぐりの風雨を防ぐために必要であるとか、実用的にやむを
得ないものであったのではないかとした上で、「暗い部屋に住むことを余儀なくされたわれわれの祖先は、いつしか
陰翳の内に美を発見し、やがて美の目的に添うように陰翳を利用するに至った」と考察しています。
それに対して、谷崎が生きていた時代(谷崎は明治19年生まれ)でさえ、過剰な人工照明により、空間に陰翳が無く
なっていき、「どうも近頃のわれわれは、電燈に麻痺して照明の過剰から起こる不便というものに対しては案外無感覚に
なっているらしい」と感じていたようです。
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現代人は、その谷崎がタイムマシンで訪れたら卒倒するような、さらに過剰な明るさの中で日々生活しています。
われわれが建物の照明計画をする際にも、この部屋は何ルクス以上必要であるとか、とかく明るくすれば良いという
志向になりがちです。
しかし、谷崎が言う、日本人の陰翳の中に美を見出す心情は、現在でも失われていないと思います。
最近では、LED照明が普及しつつあり、その経済性のみがよく取り上げられますが、新しい技術も取り入れながらも、
日本人の心情に合った照明計画を考えたいと思います。
また、人工照明だけでなく、自然光をどう取り入れていくのか、設計図には直接現れてこない、こういったものを
大切に設計をしていきたいと思っています。
設計部 大坪